FAYE FAIRE "In My Mind" サイン入り

FAYE FAIRE "In My Mind" サイン入り

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商品詳細

長年音楽を鑑賞し続けてきた聴き手が一聴したところで、これはなにも特別に聞こえるものではないのかもしれない。作曲や演奏も技術的な部分では青臭いし、この60年で生み出されてきた幾千ものポップ/フォーク・ミュージックの形式と決定的になにかが違うというわけでもないのだから。

ところが、何度か再生しているうちになぜか気になってくる。ながら聴きをして音楽を聴いていることを忘れる瞬間があったとしても、ふとした拍子に音が耳に戻ってくる時が度々あるのだ。「あれ?この曲は誰だろう?」とバンド名を確認してしまう。偉大なミュージシャンたちが残してきたものの破片を拾ったからなのか。思いの外耳触りの良いメロディに包まれたからだろうか。それとも二人の若い女性の瑞々しい感性にハッとさせられたから……? 理由は定かではない。ただ、少々危うくも命の息吹、人のぬくもりを感じる生々しいサウンドであり、歌を、そして演奏を楽しんでいることを確かに感じるのだ。ひょっとしたら、人生で幾度か訪れるであろう煌めきの瞬間を捉えることができたアルバムの一枚なのかもしれない。

この流言とも思える憶測は、それほど的外れでもないことは後ほどお分かりいただけるだろう。

しかしことさら重要なのは、ここでのFAYE FAIREの音楽は当たり前に存在していた、その、かけがえのない尊さ。それをいま一度思い知らしめるものであること。


深夜まで勉学に励み、昼下がりのカフェで取り止めのない話に興じる若者。公園のベンチで語らう恋人。窓の外から聞こえてくる子供達のはしゃぐ声。ぐずる赤子を抱きながら忙しなく家事をする母。夕暮れ時の街角に漂う晩御飯の香り。

……そう、どこにでもあると思われる風景。何気ない日常。けれども僕らはそのすべてを愛し慈しむべきなのだ。いつもの昨日で、いつもの今日で、いつも一緒の仲間との明日が来る。でも突然、そのはずだった……という日がやがて訪れる。その、かけがえのないものたちへの大切な気持ちは、いつだって失ってから気づかされることを忘れないよう。

一目会いたくて 姿を求め 捜しまわる
曙光に目を開ければ からっぽの 朝
わずかな面影を 追いかけ 追いすがる
星月夜 目を凝らしても まっくらの 闇
あなたがいない世界 は 深い海の 底
あなたの 大好きだった歌を口ずさみ 
あなたの 大好きだった道を辿って
あなたの 大好きだった場所から
あなたの 大好きだった景色を眺めている
もう二度と あなたの愛したものたちを
もう二度と わたしたちの愛した あなたのすべてを 
消してくれるな
もう一度 この手に 彼方の手を重ねて
もう一度 この耳に 彼方の言葉を届けて
もう一度 この世界に 彼方の心音を響かせて

妖精たちは二度とは戻らぬかけがえのない時間を夢のように留めてくれた。なにもかも、すべてはやがて優しい思い出として永遠になる。そして僕らはいつもの日常を、当たり前で特別な毎日を、これからも(あなたと)歩んでいく。


マレーシアのフォーク・ロック・バンドFAYE FAIREが2024年にデビュー・アルバムをリリースした。
FAYE FAIREの中心となっていたのはAlenaとI-Shanなる二人の女性。そしてこのバンドを陰ながら支えていたのはジャーナリストでAlenaの先輩、そしてI-Shanの父親でもあるMartin Vengadesan。彼は一般的なニュースを扱うだけでなく、音楽ジャーナリストとしての顔も持ち、かつてはSAMARKAND、現在はTHE STALEMATE FACTORというプログレッシヴ・ロック・バンドを率いている。

ここではAlena Nadia(ヴォーカル、ギター、キーボード)から伺った話を引用しながら構成する。

バンドの始まりはこうだ。

Alena:Faye Faireは、私がI-Shanの家で彼女と出会ったときに始まりました。初めて会った瞬間から、私たちは一緒にジャムってみて、なにか特別なものが生まれていることに気づきました。それが2022年6月のことです。そしてI-Shanと私がバンドを結成することを決意したのは、2022年9月27日のことでした。その後、ソロ活動をしていたギタリストのAzim Zainと、ドラマーのIsra Gomezが加わったのです。

彼女たちがどのような方向性を目指しているのかを知るために他記事のインタヴューを探していると、AlenaとI-Shanのお二人は、The Maccabees、Nick Drake、Elliott Smith、Jeff Buckley、Radiohead、The Beatlesなどの音楽が好きだとか。若い世代にしては古めのミュージシャンの名前も混じっている。そのあたりはMartin Vengadesanの手引きかあるのだろうか。なお、Azim Zain(ギター)はGreen Dayの『American Idiot』を聴いてドラムとギターを始め、Isra Gomez(ドラム)はFoo Fightersで何もかもが変わったとか。なかなか多種多様なメンバーが集まっているので、まだ音を聞いてない方は「本当にフォーク・ロック系なのか?」と少し疑念が湧くかもしれない。

Alena:Faye Faireは常にフォーク・ロック・バンドであることを意図していました。グループで二人だけのソングライターであるI-Shanと私は、The Beatles、Elliott Smith、Jeff Buckley、Nick Drakeといった音楽で絆を深め、それが私たちの絆の基礎となりました。これに加えて、The StrokesやPhoebe Bridgersといった現代的な影響も受けています。私個人としてはクラシック・ロックで育ちました。13歳から17歳の頃は、The BeatlesやQueenのTumblrブログを運営していて、TwitterでQueenのギタリストであるBrian Mayにツイートを送っていました(彼から何度か返信やリツイートをしてもらったこともあります!)。一方、I-Shanは、音楽家の家系と元音楽ジャーナリストである父親のおかげで、古い音楽に囲まれて育ちました。彼女のお気に入りのアルバムの一つは、Paul McCartneyの『Ram』でした。私たちがFaye Faireを始めた頃、彼女の父であるMartinが、Pentangle、Fairport Convention、Fotheringay、Vashti Bunyanなど、女性ヴォーカルのフォーク・ロック/フォーク・アーティストのリストを私たち二人に送ってくれました。このような私たちの音楽的な好みが融合されて、デビュー・アルバム『In My Mind』のサウンドが形作られたのです。

なるほど、これならフォーク・ロックと名乗る音楽を演奏するのもの納得。これはこれからの活動に期待が持てるのではないか、とクラシック・ロック愛好家のベテラン・リスナーたちも思うだろう。

ところが、2023年6月にI-Shanが急逝したという。

Alena:I-Shanが予期せず亡くなったとき、私たちは彼女の曲の制作に取り組んでいました。彼女は5曲の完成された曲を遺してくれており、それらは今アルバムで聴くことができます。タイトルは「Ultraviolet」「Telephone」「No Name #1」「Wild #2」「I'm Still Alive」です。もし彼女が今も生きていたら、曲作りの才能はますます開花していたと思います。彼女はまだ始まったばかりでした。「I'm Still Alive」は、私の意見では彼女の最高の曲です。そして、彼女が去ってから、ステージで聴いたり演奏したりするのが最も辛い曲でもあります。I-Shanは聡明で機知に富み、音楽の才能に恵まれた美しい女性でした。彼女はカルト的な人気を誇る『NANA』のような日本のアニメ/漫画に興味がありました。『NANA』にインスパイアされた蓮の花のタトゥーまで入れていたほどです。私は毎日彼女を恋しく思っています。

結成から一年も経たずに曲作りの半分を担っていた人物を失ってしまったFAYE FAIRE。あまりにも大きな損失である。ところが、失意のどん底にあっても、彼女たちはFAYE FAIREとして活動を続けていく決意をしたのである。

Alena:それは、I-Shanの曲を聴いてもらえる場を提供するために、バンドを続けるという私がした約束でした。その責任を真剣に受け止め、I-Shanとの友情を考慮したうえで、それは私の義務だと考えています。もし彼女が亡くなった時に私たちが解散の道を選んでいたら、彼女の曲は私たちの身近な人々の外には決して聴かれることはなかったでしょう。彼女にどれほどの才能があったのか、そしてこの喪失の重みを人々が知ることが、私にとって重要なのです。

アルバムには、I-Shanが書いた5曲:「Ultraviolet」「No Name #1」「Wild #2」「Telephone」「I'm Still Alive」。そしてAlenaが書いた5曲:「Siren」「You Know Me」「A Home In The Sea」「Wailing Wall」「Our Girl」の合計10曲によって構成されている。これらの中にはI-Shanの歌唱と演奏が含まれているものもあるようだ。バンドの1stシングルは2023年3月の「Telephone」だが、すでにこの時期には、アルバムを目指してレコーディングをしていたのだろうか。

Alena:2023年1月には、これらの曲の制作を開始しています。「Siren」「Ultraviolet」「Telephone」「Wailing Wall」などは、バンド初期に制作したの曲の一部です。「No Name #1」(Elliott Smithの同名の曲へのオマージュです)と「Wild #2」は、彼女がこれらの曲を歌っている録音から発展させました。「No Name #1」を完成させるにあたり、I-Shanに捧げた曲「Our Girl」でも演奏してくれたEmir Zainにサックスを追加してもらいました。

確かに、「No Name #1」や「Wild #2」のようなトラックは、長年忘れ去られていた未発表曲を発掘してきたかのような、生々しく素朴な雰囲気に溢れている。これらのローファイ感はI-Shanが残した音を尊重した結果なのだろう。

ところで、彼女たちのバンド名、そして妖精が戯れて踊るアートワークからとても幻想的な印象を受けるのではないか。きっと歌詞もメルヘンチックなものを想像されるかもしれないが、実際にはかなり現実的な部分もある。特に、リコーダーやヴァイオリンが使われていてフォーク要素が押し出された「A Home In The Sea」はオラン・アスリ(マレー半島の先住少数民族の総称)と呼ばれる人々への抑圧について語っているのだとか。

Alena:ええ、「A Home In The Sea」は、アルバムの中でもよりフォーク調の曲の一つです。この曲の雰囲気を出すために、Benk Riyadiにリコーダー、Wani Ismailにヴァイオリンの演奏を依頼しました。私はマレーシアの主要な独立系ニュースポータルである Malaysiakiniで2年間ジャーナリストとして働いていました。その間、マレーシアのオラン・アスリが直面する環境問題や土地の権利問題について現場で取材していました。この曲は、私が取材していたとある案件に対するフラストレーションから生まれ、同時にコロナ禍からの回復時期に作られたものです。私もマレーシアの先住民族(母がクチン出身でビダユ族であるため、私もオラン・アスリと自認しています)を自認する者として、オラン・アスリの人々の苦悩に深い共感を覚えたからです。通常、私は歌詞を最初に書くのですが、この曲では逆でした。まずコード進行とヴォーカル・メロディーを思いつき、そこから曲を構築していきました。歌詞は1、2回向き合っただけですぐに書き上げられ、その後は一切変更はありません。当時、私はElliott SmithやNick Drakeのようなフォーク・ミュージシャンに影響を受けていて、珍しいリズムやコード進行に興味がありました。この時点で、私がGオーギュメントのコードを好むことに気づき、それが後に「A Home In The Sea」のコード進行にも取り入れられました。ちなみに、私の好きなThe Beatlesのジョージ・ハリソンもメロディーを主導するソングライターの一人です。

さらに、一番のヒットとなった「Siren」、そして地味ながら暖かな雰囲気を携えた「You Know Me」と「Wailing Wall」についても話してくれた。

Alena:「Siren」は2020年のCOVID-19パンデミック中に失った友情についての曲です。この曲はアルバムで最大のヒット曲となりましたが、その一因は2023年の<Anugerah Lagu Indie>のロック部門にノミネートされたことにもあります。 興味深いことに、I-Shanが亡くなって以来、この曲は新たな意味を持つようになりました。ここでは彼女が「Please come back」と痛切な一節を歌っているからです。ライヴの後、時々「この曲はI-Shanについて書いたのですか?」と尋ねられることがあります。なぜそう思うのかは理解できますが、実際にはそうではありません。多くの人が、この曲が彼ら自身の悲しみを乗り越えるのに役立ったと言ってくれ、それは私にとって大きな意味があるのです。「You Know Me」と「Wailing Wall」もまた、ロックダウンの最中に書かれました。どちらの曲も、報われない愛と、たとえ報われなくても揺るぎない献身というテーマを探求しています。

楽曲的な部分で果敢に挑んでいることを感じさせるのは、8分近くもあり、プログレッシヴ・ロックの影響下にありそうな「Our Girl (Smile Because You Loved Her)」。

Alena:これはこのアルバムのために最後に書かれた曲です。King Crimsonのアルバム『クリムゾン・キングの宮殿』に触発されて、3つの異なるパートを持つ壮大な曲を作りたかったのです。それぞれのパートは、I-Shanと私が共に愛した音楽スタイルを反映しています。各セクションを繋ぎ合わせるのは簡単ではありませんでしたが、何とかやり遂げました。I-Shanの父Martin Vengadesanが率いるバンド、THE STALEMENT FACTORの「Citadel of 26」から、I-Shanのヴォーカル・サンプルを入れました。彼女について書かれた曲に彼女の声が存在すること、それが私にとって重要でした。歌詞は、私がI-Shanと過ごした様々な思い出、私たちの友情について私が感じたこと、そして彼女を愛した人々が感じた喪失感について歌っています。曲の冒頭の歌詞は、夜に彼女の近所を歩いていたときに、私が誤ってガソリン・スタンドに火をつけそうになった出来事に言及しています。一方、2番目のセクションはより描写的に、彼女がどのような人物であったかを描写することを意図しています。3番目のセクションは曲のクライマックスで、彼女がもう私たちと共に、ここにはいないんだという事実を受け入れようとしている部分となります。

そしてFAYE FAIREはI-Shanの魂を連れ立って歩みを進めていく。

Alena:私たちはI-Shanの遺志を継承し、音楽を通じて彼女の記憶を後世に伝え続けていきます。私たちの次作アルバムは、Fairport Convention、Crosby, Stills & Nash、そしてTim Buckleyからインスピレーションを得て、さらにフォーク・ロック・サウンドに傾倒するでしょう。また、この新しいラインアップの視点を反映し、より政治的な側面も帯びることになるでしょう。これは、ジャーナリストであり政党の一員である私のバックグラウンドと、マレーシアで人種差別と戦う地元のNGOで活動するベーシストのYogaの影響によるものです。

FAYE FAIREの現在のメンバーは以下の通り。

ギター、キーボード、ボーカル:Alena Nadia
ギター:Nur Khairi Hamid
ベース、ヴォーカル:Yogavelan Balamurli
ヴァイオリン、ヴォーカル:Ungku Najwa


1stアルバム。
2024年発表。

01.Ultraviolet 2:23    
02.Siren 3:38    
03.No Name #1 4:07   
04.You Know Me 3:15 
05.A Home In The Sea 4:46  
06.Wild #2 3:44   
07.Wailing Wall 3:27  
08.Telephone 2:53   
09.Our Girl (Smile Because You Loved Her) 7:55  
10.I'm Still Alive 5:09   

サンプルは「Siren」

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